十二国記【解説・考察】 丕緒の鳥②

本記事は十二国記丕緒の鳥」の解説・考察です。
ネタバレを多々含みますので、まだお読みでない方はお引き返しください。

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2013年に発売された十二国記シリーズの最新短編集。

この短編集は、従来のように王や麒麟等主要な人物はほとんど出てきません。

今回は、その中の一つ「落照の獄」についてです。

この話は十二国記シリーズの中でも少し異彩で、法律、特に死刑制度の是非に関するお話です。それゆえ、話の内容、用語共に難しいものが多く敬遠されがちな回でもあります。

しかし、しっかりと読むととても考えさせられる話であり、人が人を裁くことの難しさ、それに関わる人の苦悩などが読み取れます。確かに舞台が十二国記でなくともかけるお話だとは思います。しかし、十二国記の基本は王や麒麟などの物語の主人公がメイン。この「丕緒の鳥」という短編集は、メインのストーリーでは語られない、十二国の中にいる一般人、それぞれの仕事を全うしている人が主役ですので、その人たちから見た十二国もすごく魅力的に映っています。

頑張って内容を砕いていくので、ぜひ読んでみてください。

 

登場人物

・助露峰(じょろほう)
現劉王。法治国家を築いた賢君として名高く、治世も約120年に及ぶ。近年は政に興味を失くしたかのように振舞うようになり、国も傾きつつあると言われている。即位前は、地元では評判はいいが、中央にあまり知られていない地方官だった。


・劉麒(りゅうき)
柳国の麒麟。昇山者ではなかった現王を選ぶのに20年程かかった。

・瑛庚(えいこう)
秋官司刑、現代日本で例えるなら裁判官に近い役職。位は下大夫。
感情を表に出す事が少なく、最初の結婚はうまくいかなかった。2番目の妻は清花(せいか)、その娘は李理(りり8歳)。五十歳を目前にして地方官から州官へ抜擢されて昇仙。その際、恵施との子供のうち長男と長女は成人し結婚していたため地上に残り、未成年だった次男だけを引き取って仙籍に入れた(後に長男も長女は先立ち、次男は茅州の州官となった)。清花とは過去に恵施が起こした詐欺事件の醜聞の責任を取って一度職を辞し、仙籍から離れていた際に清花と知り合い結婚。3年後に国に呼び戻された。


・蒲月(ほげつ)
天官宮卿補、位は中士。瑛庚の孫(瑛庚の次男の子)だが、李理からは実年齢の関係もあって「兄さま」と呼ばれ、慕われている。


・如翕(じょきゅう)
典刑。罪人の罪を明らかにし、刑法に沿って罰を引き当てる。現代日本の検察官に似た役割を担う。外見は30代半ば。


・率由(そつゆう)
司刺。三赦、三宥、三刺の法を司り、罪を減免する事情の有無を裁定する。現代日本の国選弁護人に似た役割を担う。


・淵雅(えんが)
柳国の太子。かつて大司徒(地官長)を務め、現在は大司寇(秋官長)を務めている。一度決定したことは決して変えようとしない頑なな性格で、批判や撤回を受け付けずに押し通そうとする。そのため、時流によって変化するような政治に対応できず、結論ありきの、現実を無視した正論を唱えて、部下の障害となることも多い。
名君と評される父王への対抗心がある様子。それ故に『劉王以上の劉王』と陰であだ名されている。


・狩獺(しゅだつ)
姓名は何趣(かしゅ)で、狩獺は通称。三十歳前後。痩せぎすで中背。黒髪に黒目の特徴のない男。金銭目的の強盗殺人で道州、宿州、均州において裁かれた(先の2度は強盗致死だったが、均州のは最初から強盗殺人目的であっ)。均州で裁かれた後に徒刑六年を終えて市井へ放たれ、わずか半年で次の凶行に及び、以来ほぼ二年の間に十六件の事件を起こし二十三人の犠牲者を出した。
犯行は全て認めるが反省の意志は全く無く、自ら拘制よりは殺刑を望む。彼が起こした犯罪の残虐さから「大辟(死刑)を用いず」の柳国にありながら民の間から殺刑を望む声が高く、その声もあって司法官たちも彼の処罰の決定に難儀する。殺刑の停止と復活のどちらにも一理あって結論は出なかったが、最終的には狩獺に更生の可能性があるかどうかが焦点になる。そして結局、狩獺自身が更生を拒む態度であったため、殺刑の適応もやむを得ないとの決獄となる。
瑛庚は決獄に際して、狩獺にとっては反社会的行為をあえて行うことや、更生を拒むことが、何かに対する復讐であるらしいと感じている。実際、狩獺の言動からは、柳国の黥面制度を犯罪者への差別が目的だと考えている様子が見受けられる。


・駿良(しゅんりょう)
首都・芝草に住む8歳の明るく元気な子供だった。芝草で小店を営む夫婦の息子。桃を買いに行く際に持っていた、わずか12銭のために狩獺に扼殺された(殺害時、狩獺は懐に十分すぎるほどの大金を所持しており、殺してまで奪う必要はどこにも無かった)。狩獺を非難する人々の偶像となっている。


恵施(けいし)
瑛庚の最初の妻。王宮で60年近く暮らした後、「私は貴方が思うほど愚かじゃない」と最後に言い残して去っていった。瑛庚の支援を拒んで生活していたが、60年に渉る地上との隔絶で周囲との交流が途絶えており生活に困窮し、瑛庚の名前を出して金品を騙し取る詐欺を働き逮捕された。最初の徒刑を終えた後も、同様の犯行を幾度となく繰り返した。何度も同じ犯罪を繰り返したのは、自分を愚者扱いした瑛庚への復讐という意味合いがあった様子である。

 

黥面制度

柳国では長らく廃止されていた黥面を現在の劉王が復活させる際、裁かれた州と年、徒刑に服した圜土(監獄、その人間に当てられた文字(記号)の四文字を図案化した刺青を10年ほどで消える沮墨を使用して2度までは髪で隠せる頭部、3度目は右の蟀谷に入れるようにした。4度目は左の蟀谷に入れるが、こうなった場合は刺青が全て消えるまで徒刑、あるいは拘制に処せられる。この制度は当初の世論に反して意外にも犯罪者の更生を助けた。 

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物語の概要

舞台は柳国。すでに傾き始めていると周辺で噂されている、メインストーリーにはほぼ絡まない国がメインです。

秋官の一人である瑛庚は苦難していました。それは、人知を超えた外道である狩獺の裁きをしなければならないからです。狩獺の犯した罪は上述の登場人物紹介に記載した通りで、16件23人を殺害した極悪人です。

瑛庚の立場は司刑といい、現代における最高裁の裁判長に似た立場です(詳しくは上図をご覧ください)。狩獺はその罪の重さから群司法にて死刑を言い渡されましたが、1度その上の州司法にて再度審議をする必要があり、そこでも死刑となりましたが、最終的に国判断が必要とされ、瑛庚が裁く必要があるところまで来たのです。これは現代の地裁⇒高裁⇒最高裁の流れと似ていますね。今回は控訴審ではありませんが。

読者の考えではこれは死刑一択となりますが、柳国ではそうはいきません。それは、現劉王は登極してからの約120年間死刑は行わないと決めており、どんな極悪人であっても最高で無期懲役または終身刑という決まりになっていたからです。

 しかし瑛庚は、死刑自体をためらっているのではありません。今回死刑の判決を下すことにより、明らかに歪み始めている感じる国がさらに傾くことを危惧しているのです。事実、法治国家として抜群の安定を誇っていた柳でも最近はケダモノのような犯罪者が増え、妖魔・天候の悪化などが発生しています。そして噂される劉王の異常。国全体が不安を抱えているのです。ここで死刑を復活させれば、それが乱用されると。人はそれで歯止めが利かなくなり、行きつく先は芳のような異常な法治と。

 

そして瑛庚は典刑の如翕、司刺の率由と審議を重ねます。登場人物欄にも記載していますが、現代でいうと典刑は検察、司刺は弁護士と言ったところでしょうか。審議をしていく中で、死刑と終身刑で平行線が続いたり、奥さんの清花が勝手に被害者遺族を連れてきたりといろいろありますが、長くなるので割愛します(笑)

 

 

私が気になったのは2点。

(1)殺人には死刑をもって報いる。これは根本的な正義というより理屈を超えた反射ではないか。ということ

(2)劉王は明らかに狩獺の件を投げているということ。

 

(1)はとても考えさせられます。確かに死刑を肯定する人(主に被害者や遺族)は理屈で訴えてはいません。しかし、死刑反対派の人は理屈を固めて反対します。この問題は感情抜きでは語れません。私もそのような経験がないからです。ニュースで見るような極悪人に対してこいつは絶対に死刑にすべきという感情は普通に出てきます。しかし死刑にしない理由は・・・?

 

(2)柳国が傾いているという何よりの証拠です。自身が決めた死刑廃止に対して、世論がここまで声を上げ、大問題になっている。しかし王はそれに関心を示さない。相当末期に近いのでしょう。柳が持ちこたえているのはその整えられた法制度があるからだと考えられます。 死刑復活によりたかが外れ、それが崩壊していくスピードはいかほどか。。。

 

物語の終盤、瑛庚たちは狩獺に面会します。狩獺の改心に一縷の望みを持って、まるで死刑を止めてほしいと願っているかのように。

しかしその期待は打ち砕かれます。狩獺は自身の罪を悔い改めることはないと言い放ちます。どう頑張っても擁護することのできない人間だったのです。瑛庚は最終的に狩獺に死刑を言い放ちます。しかしその瞬間狩獺は腹を抱えて笑い転げました。まるで勝者のように。

 

私はこの文を読んだとき、狩獺が柳国にとどめを刺す影のようなものに感じました。王は政治を放棄、民は怒り狂い、最後の門番である司法も負けてしまった。これにより柳の滅亡は決定的になった瞬間だったのではないかと思わされます。

 

では瑛庚が死刑を選択しなければどうなっていたのでしょうか?確かに一時は持ちこたえるのかもしれませんが、狩獺の影は国全体に影響を及ぼしています。おそらくは民が暴走して同じような結果になった可能性はあります。やはり十二国は王がすべてです。王が沈んでいる時点で国は沈みます。柳の場合、その沈む理由の一つに狩獺があったのだと思います。

 

そしてまた気になるものが出てきます。そう、「天」の矛盾です。殺してはならぬ、民を虐げてはならぬとありながら、刑法には死刑が存在する。結局はそのはざまにいる人々が適正な場所を探るしかないと瑛庚は考えています。

 

十二国における天とは何なのでしょうか?随所に登場してきますが割と矛盾をはらんでいます。しかし天の摂理に少し近づいた瑛庚たちがどのように国の崩壊を食い止めることができるのか、続きを読んでみたいものです。

 

そしてこれからは天の考察も積極的にしていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。